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すると、顔に突然冷たいものがかかった。それに手を伸ばしてみると、嫌悪感を湧き立たせるには十分すぎる粘着性を感じ、俺はくぐもった悲鳴をあげる。
「な、何だぁ!?」
俺はばちりと目を開ける。その粘着性のある物体は相変わらず顔にへばりついたままだが、幸いにも眼鏡をしていたため、その姿を見ることは叶った。
だが、俺はすぐに後悔することとなる。これなら見えない方がマシだったと。
『ブッショアアアアアアッ』
筆舌に尽くしがたい光景がそこには広がっていた。眼鏡の向こうの視界は濁った緑色の液体のようなもので埋め尽くされ、先ほど俺が放った悲鳴も、そこに気泡となって漂っている。そして極めつけに、その液体の中に浮かぶ無数の目玉と、一斉に目があったのだ。耳をつんざくような金切り声をあげ、顔に液体がうごうごと蠢きながら広がっていくのを感じた。
「ぷぎゃああああああっ!?」
豚のような悲鳴をあげ、俺は草原をもんどり打ちながらその液体を掴んで引き千切ろうとする。しかしどういう理屈でへばりついているのか、その液体は俺の脂ギッシュな肌から離れる気配がない。
なんだって夢の中で、こんな気色悪い化け物に襲われるような目に遭わなければいけないのだ。我ながらふがいなさに涙が出る。辛い目に遭うのは現実で十分だというのに。
(…って、コポォッ!?)
そう自分の悲劇に恨み節を言っている内に、俺は自分の肺の中の空気が少なくなってきているのを感じた。鼻も口もその怪物に覆われているため外気を取り入れることができず、その上むやみに叫び散らしたため酸欠になりかけているようだ。このままでは窒息死してしまう。デブが窒息死とかいう文面はネット上でのいい笑い物になりそうなので、このまま呆気なく死ぬのは御免だ。
(いや、けど待て)
だが、俺はそこで一つ大前提を思い出す。良く考えれば、これはまだ夢の中ではないか。こんなに苦しいのも、どうせ寝ている自分が変な体勢で寝て、気道が圧迫されているだけにすぎないのだろう。むしろこのまま落ちれば、俺は目から覚めるではないか?そんな仮説にいきついた。
(いけないいけない、この来場暁人ともあろうものが夢如きにマジになるなぞ…。このまま寝るぞ、寝るぞ…)
そして俺は抵抗をやめ、そのグリーンモンスターに為されるがままになろうとした。
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