生き甲斐を奪われて

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俗に言うオッドアイというものなのだろう。今まで俺はオッドアイなど厨二乙と笑っていただろうが、こうも間近に見ると、物珍しさに食い入るように見てしまうものである。 そんな奇妙な出で立ちに独特のヘアスタイル、オッドアイとくれば、その手に握られた「それ」など最早驚かないレベルに感じられた。 その手には、柄と鍔が金の装飾を施され、青の宝玉が嵌められた、普通の女なら手に余るだろうと思われるほどの長い刃の両刃剣が一本、握られていた。まるでファンタジーゲームやアニメから抜け出してきたようなその出で立ちに、俺は唖然とせざるを得なかった。 俺が身動きのとれない内に、その変な液体は女に向かって飛んでいく。大の大人の俺ですらあの生物は気持ち悪いと思うのだから、虫一匹でもピーピー言う女など卒倒モノであろう。そう思っていたのだが。 「…っ!」 その女は身じろぎ一つせず、その長剣を振りあげた。一瞬刃の軌跡が青白く煌めいたように見えたかと思うと、その刃は液体の肉体にめりこみ、その体を空中に放り上げたのだ。空中から固形化した緑色の液体や、外れた目玉が降り注ぐ。 「『爆氷傘(バクヒョウサン)』!!」 女が何か聞きなれない言葉を口にしたと視認した瞬間、空から落ちてくるその液体に向かって天を貫かんばかりの鋭い刺突を繰りだしたのだった。その刃が肉体を貫いたかと思うと、一瞬にしてその肉体は凝固。色も淡く変色し、その体表から霜が降り始める。 「…やぁっ!」 そして鬨の声が響き渡ると、その液体は粉微塵に爆発。草原の上にその凍結した破片がごろごろと転がっていった。俺はその様子を口を開けて、呆然と見届けるしかなかった。 「……」 その女は剣を振るって体液を払い、背中の鞘にそれを収めると、静かに俺の方に歩み寄ってくる。近づいてくるその顔は意外にも幼く可愛らしい顔立ちで、16歳くらいにも見える。だが体は一人前に成長しており、華奢なのに出る所は出ているという理想的な姿形をしていた。情けなく草原にへたり込む俺を覗きこむように膝に手を当てて屈みこむと、その小さな口を開いた。 「……怪我。ない」 無表情系というのか、表情の起伏の少ない声が耳朶を打ち、俺は無意識に、この肉の乗った首を縦に振った。
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