生き甲斐を奪われて

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生き甲斐を奪われて

大都会、東京。そこは夜になってもネオンや街灯が煌々と輝き、さながら不夜城の如き首都である。そこにはその光に誘われた蛾の如く、多くの人々が群がって、それぞれの事情を抱えて生きている。 家族のため。仕事のため。自分のため。理由は万別あれど、そこに生きる人々は使命や生き甲斐を持って、それぞれの人生を歩んでいるのだ。 かく言う俺もそう。 人は俺を見て笑うだろうが、俺にとってはそれは立派な使命であり、立派な生き甲斐である。少なくとも、学ぶことや働くことよりも、俺にとっては大事なことだ。 数週間前から楽しみにしていた『それ』のため、俺は一人暮らしをしている四畳半の部屋から躍り出る。この数年の不摂生がたたって、すっかり贅肉を纏ってしまった肉体を無理やりねじこんでピチピチになった黒いTシャツに、背中には迷彩柄のリュックサックを担ぐ。 そして錆だらけの共同階段を息を切らしながら降り、手に紙片を握りしめて、大都会の夜へと駆け出した。俺の生き甲斐、俺の生きる意味。ただそれだけを求めて。
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