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「ベガ、アルタイル、デネブ」
残念ながら今夜は曇っていて見えないけれど、まるで夜空をなぞるみたいにコウは指先を動かした。
「不思議だね」
「え?」
「むっとする湿気も頬にあたる風も、いいもんだね」
はたから見れば、滑稽な二人だろう。今風の男子高校生と白ガウンの男の人。だけど、これが私達の置かれた現実なのだ。悲しいけれど、揺るぎようのない。
けれど、隣にいてくれる体温を感じられる。それだけで、私は幸福になる。だけど……そろそろ時間みたいだ。
「あのね、コウ……」
「俺さ」
私の言葉を遮り、幼なじみは続ける。
「決めてたんだ」
「えっ?」
「お前と……ヤルって。だから、財布に……」
真剣な眼差し。思わずキスくらい許してしまいそうだ。
でも、この体を貸してくれている男性に申し訳ないし、周囲への更なる誤解は今後のコウの為にも避けたい。
「なぁに……言ってんのよっ!」
勢いよく背中を叩くと、コウは痛みからか恥ずかしさからか呻く。
「う~……穴があったら入りたい……」
その時、小気味良い音が鼓膜を刺激した。
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