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◆◆◆
あの春の日から私は漂っている。気付けば朝顔の蔓はぐんぐん伸び、もう夏はすぐそこだった。
あんなにも私の死を悼んでいた人達も、次第に元の生活に戻っている。
そうしていつか……忘れられてしまうのだろうか?
『のわっ!』
お向かいさんが放った打ち水がかかりそうになり、反射的に身を捩る。しかし諸君、私には足がなかったのだ。
おばあちゃんの飼い犬が、不思議そうに私を見上げた。
『コロ。元気?』
屈み込み、手を伸ばす。触れる事も撫でる事も出来ない。
『そういえば小学生の頃は、よくコロと川へ散歩に行ったな。コウは野球ボールを必ず持って来てくれて』
並んで食べたアイスクリームは、すぐに溶けてべとべとなった。
「おはようございます」
「あら、コウちゃん。いってらっしゃい」
コウは私に気付かない。御近所さん受け抜群のさわやかさを振りまいて、学校へと向かう。
『ほんの数年前なのに……ノスタルジーにも程がある』
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