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コウはどんどん進んでいく。特設会場の脇も抜け、煙草の匂いが残る喫煙コーナーも通り過ぎる。
「かんぱ~いっ!」
缶入りのカクテルで、すでに酔っ払いと化している女の人達。私もいつか、ああなるのかなって、ちょっと憧れていた。
お化粧して、おしゃれして、恋をして。いよいよその日を迎えるかもって予感の前日、勝負下着で悩んだりする。
『そんな当たり前の事……もう出来ないんだ……』
何だ、私。未練だらけだ。やり残した事、沢山あった。
もっともっと……生きたかった。
『コウ……?』
コウは一人、屋上の外れにいた。フェンスの前に立ち、じっと夜空を見ている。
『まさか……そんな……』
嫌な予感がした。
「カナ……」
制服のズボンのポケットに両手を入れ、うつむく。肩が震えるから、たすきがけしているショルダーバッグまで小刻みに揺れた。
『コウの泣き虫め。あの日も迷子になって、べそかいてたね』
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