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「じゃあお言葉に甘えて行ってきます。お土産は焼きとうもろこしでいいですか?」
「あらいいわね。お願いね」
まだ20代の清水さんと、30半ばの池谷さんはふたりとも和装が好きで、『川見』閉店後も、それぞれフォトスタジオ、ショッピングモールの呉服店に仕事が決まっています。
お揃いの、朝顔柄の紺地の浴衣の袖を閃かせて、エレベーターに向かいました。
立花さまと梨々香さんは浴衣コーナーの真ん中にいます。
あの様子ではまだ時間がかかりそうです。
浴衣の着付けは5分もあれば済んでしまいますので、縁日には充分間に合うでしょうが、そろそろ帯を見ておいた方がいいかもしれません。
少しオープン棚の中を整理してから、浴衣コーナーに向かおうとした時。
「あの、すみません」
背後からの声は男性で、珍しい、と思いながら「はい、いらっしゃいませ」と反射的に振り返り…私は驚きのあまり息を飲んでしまいました。
白いコットン地のシャツに、ベージュのパンツ。
ほんの少し、体格がよくなったでしょうか。
目尻のシワが、歳を重ねた分だけ増えてはいますが、柔和そうな眼差しはあの頃と変わりません。
20年前、心を残しながらお別れした、あの頃と。
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