夜明け前まで

17/30
前へ
/32ページ
次へ
「はい、お電話代わりました。川見でございますが」 『テンチョーさん、ウチ。梨々香』 「…梨々香さん?」  思いがけない相手で、つい聞き返してしまいました。 「どうなさいました?」 『ねー、すぐ来て』 「はい?」 『キンキュージタイなの。今すぐ来てよ』 「あの、どちらへ」 『お祭り。早く来ないと帰っちゃうからね』  訳も分からずいると、声は唐突に途絶えてしまいました。 「どうしたんですか?」  私が受話器を持ったまま呆然としていると、清水さんが不思議そうに訊ねてきました。 「キンキュージタイ、って…梨々香さん」 「立花さまのお孫さんですよね?私も誰かと思ってビックリしたんですけど…」 「縁日にすぐ来て欲しいっていうのよ」    浴衣が着崩れでもしたのだろうか。そんなはずはないけれど…と思い巡らせていると、池谷さんが私に笑顔を向けてきました。 「店長、行ってみてはどうですか?」 「あら、でも…」 「もしたいした用事でなければ、そのまま少しいてもいいじゃないですか。あとは私たちが店番してますから。ねえ、清水さん」 「はい、大丈夫です。立花さまも一緒でしょうし、店長も楽しんで来てください」  
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加