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背が高く体つきのしなやかな梨々香さんに、その少し異種な浴衣はとても良く似合っていて、人ごみの中でも頭ひとつ目について見えたのです。
「梨々香さん」
声をかけてから、私は立花さまが一緒にいないこと、そして同じ年くらいの男の子が一緒なことに気づいて少し焦りました。
「あ、テンチョーさん。見てみて、金魚」
梨々香さんは、店にいた時よりも上気した明るい顔で、小さな和金が二匹泳いでいるビニール袋を掲げて見せました。
まあ可愛い、と言いかけてやめました。
緊急事態、はどこなのでしょう。
浴衣は襟元も前合わせもぴしりとしたままです。
「梨々香さん、立花さまは?」
「おばあちゃんはステージの前で座ってる。誰かと喋ってるよ」
ほら、と指差す方を眺めれば、立花さまは店のはっぴを着込んだ、年配の総務部の女性と話込んでいました。
社交的な立花さまは陸奥屋の社員にも顔見知りが多いのです。
「テンチョーさん、ウチの彼氏」
梨々香さんは、頭をクイッと動かすというなんとも失礼なやり方で、隣にいる男の子をふいに私に紹介しました。
男の子は別段気に留める様子もなく、初めて私に会った時の梨々香さんと同じような姿勢で、ペコリと首を曲げます。
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