夜明け前まで

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 何故ひとりであんなところに。  まなちゃんは…?  戸惑う私に、梨々香さんが耳うちします。 「…テンチョーさん、ガンバって」 「えっ」 「好きなんでしょ?あのおじさんのこと。チャンスだよ」  …突然、何をこの子は言い出すのでしょう。  私は思わず、その派手な化粧の顔を降りあおいでしまいました。 「わー、テンチョーさんめっちゃびっくりしてる」  ケラケラとさも可笑しそうに笑う梨々香さんに、苛立ちさえ覚えます 「…大人をからかうものじゃありません」 「ごめーん。でもさー、あの人ずーっとひとりでいるんだよ?誰か待ってるみたいに」 「ご家族を待ってるんですよ、きっと」 「それってヘン。ウチのすぐあとに来て、ずっといるんだよ?待ってるの、テンチョーさんのことだよきっと」 「梨々香さん」  本気で腹が立ちました。  今日会ったばかりのこの子に、何が分かるというのでしょう。  緊急事態というから来てみれば、勝手な憶測でひとを決めつけ、ペラペラと軽薄な態度で煽り、からかい…  それに、知り合いっぽかった、なんて。  この子は浴衣を選びながら、私の様子を見ていたのでしょうか。  ぴしりと名を呼び、私はその苛立つお喋りを遮りました。
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