夜明け前まで

22/30
前へ
/32ページ
次へ
 けれど思えば、子供くらい年齢の離れている梨々香さんに、大人げなく本気で腹を立ててしまうほど、私の胸は揺らいでいたのでしょう。  そして、長い間そんな感情を抑え続けていた私とは違い、梨々香さんはとても素直に、当たり前のようにそれを語りました。 「怒らなくたっていいじゃん。好きな人がいるってカッコいいよ」 「そういうんじゃありません。それに盗み聞きなんて良くないですよ」 「だって分かっちゃったんだもん、テンチョーさん、ウチと一緒だって」 「一緒?」  すると、梨々香さんは隣に立っている彼氏くんの肩にコツンと寄りかかり、今までで一番可愛らしい笑顔で言いました。 「ウチは、たぁクンにマジ惚れ。世界で一番好き。テンチョーさんもそうなんだ、ってキュンキュン響いて来たの」  観覧車のライトアップを背にしているのに、その頬がふわりと赤らむのが分かりました。  たぁクンと呼ばれた彼は、梨々香さんの頭を肩にのせたまま、照れ臭そうにしています。  …一気に、抵抗する気力が失せました。    世界で一番。  その言葉に、年甲斐もなくときめいてしまったのです。 「だから、ねっ」  ぽん…  梨々香さんが、柔らかい手つきで私の肩を押しました。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加