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「あなたこそ…どうしてこんな所にひとりで…まなちゃんは」
なるべく自然に、何気なくなんて出来ませんでした。
ベンチまであと7歩程の微妙な距離をおいたまま棒立ちになっている私に、先に笑顔を作ってくれたのはその人の方です。
「…時間があるなら、座らないか?」
吸い込まれるように、私は隣に行きました。
一緒にベンチに腰を降ろし、少しの沈黙のあと、その人は口を開きます。
「愛奈は帰ったよ。母親と一緒に」
「母親と…?」
「ん。…離婚したんだ、6年前に」
ああ、やっぱり…
その人の横顔は、さっきまでと同じでひどく寂しげでした。
「元妻は2ヶ月に1度こうやって会わせてくれる。おかげで、2才の時別に暮らし出した愛奈は、ちゃんとパパと呼んでくれるんだ。…ありがたいよ」
「上の娘さんは」
「あっちは母親にべったりでね。…来年中学生だし、父親を嫌がり出す年齢だから、あまり口をきいてくれなくても仕方ないね」
ははっ、と乾いた笑い声。
子供好きだったこの人にとって、それはどれだけ切ない思いなのでしょうか。
「子供たちは地元の母親の実家に住んでいてね、いつもなら面会日にはあちこち連れ出すんだけど、今日はここが閉店と聞いて、縁日にかこつけて来たんだよ。…やっぱり良い父親とは言えないね」
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