夜明け前まで

26/30
前へ
/32ページ
次へ
 ふと見ると、観覧車の下に梨々香さんたちの姿はありません。  目を凝らして見回しても、それらしいふたりはどこにも居ません。  帰ってしまったのか、それとも出店にでも並んでいるのか… 「誰かと一緒?」 「あ…ちょっと。一緒って訳じゃないんですけど」 「もしかしてご主人。だったら僕と座っていたら怒られるんじゃないのか?」  あまりにも普通に言うものだから、私は一瞬、何のことだか分からず、その人の思い込みを即座に否定するタイミングを失いました。 「陸奥屋が終わったあと、川見はまた店舗営業に戻るのかい?」 「え、あ…川見も店じまいです」 「それはまた、どうして」 「陸奥屋だったから、川見は続けて来られたんです。私ひとりでは…」 「ひとり?…ご主人は会社員とか」 「いえ、それは」  上手く言葉を並べられずにいる私をどう察したのか、その人は急に我に返ったように引きました。 「ごめん。立ち入った事を聞いてるね」 「い、いえあの、私」 「え?」  また、胸の奥で何かが脈打ちます。。  ずっと独り身で通して来たこと。  何故か口に出せなくなっています。  …理由が、この人だから。  今、それをはっきりと自覚しました。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加