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ふと見ると、観覧車の下に梨々香さんたちの姿はありません。
目を凝らして見回しても、それらしいふたりはどこにも居ません。
帰ってしまったのか、それとも出店にでも並んでいるのか…
「誰かと一緒?」
「あ…ちょっと。一緒って訳じゃないんですけど」
「もしかしてご主人。だったら僕と座っていたら怒られるんじゃないのか?」
あまりにも普通に言うものだから、私は一瞬、何のことだか分からず、その人の思い込みを即座に否定するタイミングを失いました。
「陸奥屋が終わったあと、川見はまた店舗営業に戻るのかい?」
「え、あ…川見も店じまいです」
「それはまた、どうして」
「陸奥屋だったから、川見は続けて来られたんです。私ひとりでは…」
「ひとり?…ご主人は会社員とか」
「いえ、それは」
上手く言葉を並べられずにいる私をどう察したのか、その人は急に我に返ったように引きました。
「ごめん。立ち入った事を聞いてるね」
「い、いえあの、私」
「え?」
また、胸の奥で何かが脈打ちます。。
ずっと独り身で通して来たこと。
何故か口に出せなくなっています。
…理由が、この人だから。
今、それをはっきりと自覚しました。
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