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『川見』のために自分を犠牲にした、という気持ちはありませんでした。
流れの中で、全て私自身で決めたことです。
それに後悔はありません。
けれどそのせいで、私はこの人を傷つけた。
男の人が泣く姿を見たのは、あとにも先にもあの一度きりです。
自覚したところで、今さら何を…。
離婚したと聞いて、舞い上がりそうになった自分の浅ましさが嫌になります。
店に戻ろう。
このままここにいては、ますます離れがたくなる。
早く立たなければ。
早く…
「瑠璃子」
その声に、身が震えました。
「僕は、余計な事を聞い…」
「私…」
「え?」
衝動が沸き上がり、もう止めることが出来ません。
「ずっと、独りでした。今も」
言ってしまった…
裸をさらけ出したようで、いたたまれない。
その人が、グッと息を呑む音が聞こえた気がします。
私は無理に口を歪ませて笑顔を作りながら、何でもない事のように振り返って見せました。
「川見のことばかり考えていたら、この歳になってたんです。恥ずかしいことに」
「そうか…僕はてっきり」
「そんな歳ですから、そう思われて当たり前です。気にしないでくださいね」
「じゃあ、これからは何を?」
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