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「拠り所だったって言ってもね、ここにはあれ以来、数えるくらいしか来てないんだ。離婚したあとはなおさら寄りつけなくなった。君は当然結婚してると思ってたし、見るのは辛かった。…情けない話だよ」
蛍の光は、流れ続けています。
「愛奈が浴衣をねだってきた時も、僕は最初、違うフロアに行ったんだ。でも気に入るのがなくて、ぐずる愛奈に追い立てられて川見に行ったようなもんだよ。行ってすぐ後悔した。君は昔と同じに前を向いて仕事をしていて、ひどく自分が惨めに感じたんだ」
「透さん…」
懐かしい、名前。
思わず口にしていました。
「なのに…子供たちを見送ったあと、また戻ってきて…。何やってんだろうって思いながら去り難くてね。…瑠璃子」
もうその呼び声を聞くだけで、くらりと目眩がするようでした。
おそるおそるその人を見ると、ベンチに腰を下ろしたまま真っ直ぐ私を捉えています。
「どうして君は、ここに来たんだ。…いや、期待してなかったって言えば嘘になるけど、さっき君の姿を見たときは本当に驚いた。店を置いてくるはずないと思ってたからね」
「…それは」
「それよりも…聞いていいかい?どうして君は、ずっと独りだったんだ」
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