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「それは…だから、ご縁がなくて」
「頼むから本音を聞かせてくれないか。勝手なことを言うようだけど、もう後悔はしたくないんだよ」
…私はこみ上げてくるものを抑えるのに必死でした。
勝手だったのは私の方なのに。
差し出された手を掴む資格が、私にあるのでしょうか。
「私…」
その時、どこかで夏の音が聞こえました。
急に打ち上げられた光の玉は、パアッ…と暗い夜空に大輪の花を開かせ、陸奥屋の屋上にいる人々を照らします。
「…花火か」
振り仰ぐその人と私の顔を、何度も何度も、照らしては消え、照らしては消え…
「…朝には、帰らないと。仕事は待ってくれないからね」
ゆっくりと、昔と変わらない穏やかな目をしたその人は言いました。
「だけどそれまでまだ時間はある。…瑠璃子、話をしないか?20年前のあそこまで戻って、もう一度」
「…透さん…」
どこかで梨々香さんが可愛い顔で笑っているような気がします。
『世界で一番、はゼッタイあるよ』
そうかもしれないね。
もう私は、涙を止めることが出来ませんでした。
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