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後ろに控えている私に、姿見越しに微笑みかけて下さいます。
「本当に『川見』は店じまいなの?陸奥屋が新しい経営者に変わっても、店自体は続けられるって話じゃないの」
当てていた反物を私に手渡すと、今度は違うものをまた手に取りました。
「はい。私の代で終わらせるのは心苦しいのですが、父と相談して、そうすることに致しました」
私は受け取った反物をシュルシュルと巻き戻して棚に戻し、立花さまの好みそうな柄をまた2本選んで控えました。
もう夏は始まっていて、本当ならこの時期に選ぶのは終夏から秋冬にかけての単(ひとえ)や袷(あわせ)用の反物なのですが、今日は売りつくしで、薄物の生地がずらりと勢揃いしています。
「仕立てを急げば、まだ季節が間に合うから」
立花さまはそう言って、『川見』の最後に花を添えようとして下さっています。
「お父様、どうされてるの?」
気に入った反物は、反物のまま着物のように仮着付けして、柄の出具合を見、場合によっては合わせる帯や小物類も決めていきます。
その合間に話をするのも、立花さまとの長年の呼吸のひとつです。
「やっと気持ちも落ち着いたみたいで、またリハビリの散歩に出るようになったって、お義姉さんが電話で教えてくれました」
「あら良かったじゃない。病は気から、よ。自分から動こうって気持ちがあるうちは大丈夫よ」
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