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「それから、もうひとつ。仕立て上がりの浴衣を、着付けまでお願いしたいのよ」
「浴衣、でございますか?」
つい聞き返してしまいました。
長年のお付き合いの間に、立花さまが浴衣をお買い上げ下さったのはただ1度だけ。
店内ですぐ着付けて、屋上の縁日に行かれるという心づもりなのでしょうが。
けれど今日の、藍絽のお召し物を涼やかに着こなしていらっしゃる姿からは、その必要も感じられず…。
「嫌だわあなた。私が浴衣って、そんなに驚く事なの?」
私の顔がよほどポカンとしていたのでしょう。
立花さまはさも可笑しそうに言いながら、店の前面の浴衣コーナーに向かいました。
慌てて後を追います。
「失礼致しました」
「いいのよ、実は私が着るんじゃないの。もうすぐ来ると思う…あ、来た来た」
まるで若い女の子がするように、立花さまが弾んで手を振った先を見てみると…
「私の孫娘。ー梨々香、ご挨拶して」
私は、歩きながら見ていたスマートフォンをぶらんとぶら下げて、お尻を後ろに突きだし首だけをコクンと落としてお辞儀らしき態度をした、その女の子に唖然としました。
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