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「おばあちゃん選んでいー?」
言いながら、梨々香さんは立花さまの返答を待たずに、ハンガー掛けで陳列してある浴衣の列に指を潜り込ませ、真剣な顔付きで選り始めます。
「いいけど、爪気を付けなさい。そんな乱暴な手付きじゃ折れてしまうわよ」
「はぁ?折れないしふつー」
こちらを見るでもなく、ハンガーの音をカチャカチャと立てている梨々香さん。
その素っ気ない態度も、ぶっきらぼうな物言いもいつもの事なのでしょうか。
立花さまは呆れ顔で軽く肩をすくめながら、それでも笑っています。
「これなのよ。私のこと小馬鹿にしてるのよあの子。ーああ梨々香、そんな突飛な柄にしたら、来年着られないわよ」
「着るし」
「あなたまだ未成年なのよ。もっと娘らしい…」
手をこまねいて見ている事が、元々出来ない性分の立花さまは、やいのやいの言いながら梨々香さんの横に立ち、一緒にハンガーを選り出しました。
大丈夫かしら、といささか気を揉みましたが、梨々香さんは特に嫌がる素振りも無く、立花さまの差し出すハンガーを受け取ったりしています。
どうやら仲良しらしいふたりの、額を付き合わせて楽しそうな様子に、私はホッと安心しました。
お声が掛かるまで少し控えていることにし、『川見』の店内から見慣れた、他店舗の景色へと目線を移します。
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