序章

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とある小さな国の城の一室で、誰もがその子の誕生を待ち侘びていた。 王妃は中々子宝に恵まれず、齢は既に40を超えていた。それ故にこの子を身籠った瞬間から『無事に出産する』ということが王妃や国王、王室の者だけでなく、国民全ての祈りであり、願いであり、要望であった。それと同時に、生まれる子が男児である事も強く望まれた。 ーーー生まれたのは女児であった。 しかし、その場に居たのは国王と王妃と産婆だけであった。 「陛下…王妃様のお年では、次の子は難しいでしょう……」 産婆は控えめに、しかし言葉を噛み締めて言った。 「ああ、分かっている。……予定通り、国民には男児であった、と報告する。この子も、男児として教育する。これは、彼女が身籠ってからすぐに話し合って決めたことなんだ…」 国王は気を失った王妃の頭を愛しむように撫でながら言った。 「……やはり、そうされるのですね。」 産婆は少しため息混じりに言った。そして、「私は口外したりしません。陛下への恩を仇で返すような真似はしません。それでは、私はここで失礼します。」と強く言い、去って行った。 産婆が去ったその部屋は、ひどく静かだった。まだ赤子でありながらも、何かを察したのだろう、今は泣き止んで国王の腕に静かに抱かれている。 「ごめんな、本当は女の子として育ててあげたい…けれど、この先のこの国の事を考えると、そうするわけにも行かないんだ…」 男は、声を震わせながら、静かに赤子に告げた。その時、赤子の頬に一滴だけ、雫が零れた。
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