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空港にて
流れ出てくる人々に目を向け
待ち人がいないことが分かり壁に寄りかかる。
そして大きなスーツケースを押しながら出てきた集団の後ろから
トレンチコートを羽織った女性がこちらに向かって歩いてきた。
「理央」
自分の名前を呼び胸の辺りで小さく手を振る。
数歩歩み寄り、両手を広げた。
「おかえり、愛琉」
「ただいま」
背伸びをした彼女に背中に手を回され、軽く抱きしめられる。
それに応える様に、背中に手を添えた。
「元気だった?」
「変わらないよ。
愛琉は髪、切ったんだね」
「うん。
パパとママに怒られちゃいそう」
愛琉のスーツケースを引いて、車に向かった。
「思ったより寒くない」
すん、と匂いを嗅ぐ様に目を瞑り空に顔を向けて息を吸い込んだ。
「少しは寝れた?」
「うん」
「もう飛行機で酔わない?」
「まだ」
眉を下げて首を振ると、短くなった髪がサラサラと揺れた。
助手席に乗り込んだ愛琉がエンジンをかけようとする自分を覗き込んだ。
「理央、雰囲気変わったね」
「愛琉だって」
そう言うと、柔らかく笑った。
「……私、理央に話したい事があるの」
黒い瞳がじ、と見つめる。
「うん」
それに応える様に口角を上げて頷いた。
ささめごと6END
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