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先輩を初めて寝室に入れたのは
雨に濡れたあの日。
事を終えた時
先輩は
「羽山って
いつもこんな風に
女の人を抱くの?」
と掠れた声で問いかけてきた。
意外な事を聞かれて
一瞬喉が詰まる。
「……なんでですか?」
先輩はうつ伏せになって
腕に顔を乗せてこちらを見ていた。
半分意識のなさそうな顔をしている。
目尻が垂れているから余計に眠そうに見える。
先輩が小さく口を開いた。
「自分勝手にされた方が
諦めがつくじゃない」
長い睫毛がゆっくりと動く。
「……それは、良かったって事ですか?」
「…………」
視線をそらしたまま先輩は腕に顔を埋めてしまった。
「京都で、先輩に言われたから」
「……」
「『二度は無い』って。
だからまぁ、少し。
普段は先輩の言うとおり自分勝手ですよ」
伏せている先輩の髪を指で掬った。
「そういう意味で
言ったんじゃないよ」
先輩がこちらに顔を向けた時、指からするりと髪が抜けた。
まぶたが半分閉じている。
「羽山って、高嶺の花っていうか
近寄り難いって感じだから
一度でも触れ合えればいいって子も
多かったんじゃないかなと」
「……」
「そう思ってた……の」
そういいながら、意識が途切れてしまったみたいで
すぅ、と寝息を立てた。
……あの日、先輩の言葉に煽られたのは、自分の早とちりだったのか。
顔を押さえて溜息を吐いた。
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