第1章

53/58
前へ
/58ページ
次へ
「淳くんはどうやって帰るの?」 「俺はそこで電車乗るんで。 羽山さん姉ちゃんよろしくです。 ごちそうさまでした」 「うん、気を付けて」 彼は片手を高く上げて笑顔で手を振って帰って行った。 「良い子だな」 ぽつりと呟き、隣の今にも寝てしまいそうなたれ目の人に目を向ける。 「先輩、タクシー乗ります?」 「まだ電車あるから」 1人で帰れる気でいるのか、この人は。 「先輩、心配だからタクシー乗ってください」 「大丈夫」 す、と立ち上がりまっすぐ歩き出す。 「……」 くる、と振り返り先輩はにやっと笑った。 「優しいね、羽山は」 「は?」 「酔ったふり、とか考えないの?」 「……先輩に限ってそれはないと思ってます」 「……私も自分でそう思う」 「ほら、そういう所」 真っ直ぐで計算の出来ない所 「だから、貴方の事が……」 そう言いかけて、言葉が止まった。 先輩の視線がふわっと宙を舞う。 「羽山?」 首を傾げながら後方に倒れて行く。 「酔ってるじゃないですか」 駆け寄り肩を咄嗟に支えた。 「あ、すいません」 俯いた先輩が敬語で謝る。 「すいませんて」 思わず笑ってしまう。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

287人が本棚に入れています
本棚に追加