第1章

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びくっと肩に力が入るのがわかった。 持っていた鞄を手放して、背けている顔に手を伸ばした。 顎のラインに指が触れると、それを避ける様に壁に背中を付けた。 「何て言われたの?」 「……」 「想像できるよ。 多分自分に迷惑がかかる的な事でしょ?」 「……」 先輩は視線を伏せたまま黙っている。 「そういうやり方するんだ、あの人」 はぁ、とため息をついて先輩の肩に凭れる。 「……羽山?」 「先輩、ちょっと我儘言ってもいいですか?」 「……」 「先輩が草間さんの事を修ちゃんて呼ぶの……やなんですけど」 「……え?」 「出来たらやめてくれません?」 「……何でやなの?」 「……」 凭れていた頭を起こして、先輩の目の前に顔を合わせた。 「そんなの普通のことでしょう?」 先輩は目を開いて口をきゅっと結ぶ。 「普通……?」 「ええ」 先輩の口が小さく開いた。 その口から漏れる言葉を人差し指で塞いだ。
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