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うつむいて、胸元におでこを寄せられる。
くっとスーツの裾を引っ張られたまま沈黙が続く。
「……。
これが……限界」
そう言って、一歩下がり距離を作る。
シーリングライトの光で分かりにくいけれど、先輩の顔が赤くなった様に見えた。
「それ、いいですね」
「……もぅ、やだ」
前髪を撫でながら、小さく呟いてリビングへ逃げて行く。
……先輩の潜在女子力はかなり高そうだ。
不覚にも仕掛けたこちらが脈拍を乱されてしまった。
「知和」
手を伸ばしても拒否されない。
頬に触れれば長いまつげを伏せ
抱きしめれば身を委ねられる。
この手の中に先輩はいるのに
先輩は自分のものじゃない
それは分かっている。
だからあの人が好機な目で見て先輩に近付く事に苛立ちを覚えるのは違うんだ。
この温もりに触れているのに
指の隙間からこぼれ落ちて
何も掴めない。
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