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さて、困った。
目の前で震える小さな男の子を見て私は困っていた。
話は少し前に遡る。
花園へ向かおうとしていた時、突然モーリスの声が聞こえてきた。
泣き声だったので気になって来てみれば、何故かモーリスは知らない男の子と一緒に泣いていたのだ。
そして男の子は私を見た途端に小さな悲鳴をあげて震えた。
その反応に対しては別にいい。
だって今までされてきた反応でもあるから。
でもこの子……どこの子?
「ねぇモーリス。どうして泣いてるの?」
「だって、この子泣いてるもん」
「それで一緒に悲しくなっちゃったの?」
「うん」
小さな手で目を擦るモーリス。
見たところモーリスと歳は変わらないみたいだ。
相変わらず私を見て震えている男の子に私は話しかけた。
「ねぇ」
「ひっ……!」
「あの……怖がらないでって言う方が難しいけど、とりあえず話を聞かせてほしいの。大丈夫?」
ゆっくり頷く男の子。
私は男の子と同じ目線になるようにしゃがんだ。
「どうやってここに来たの?」
「……花街にいたら、こっちに来ちゃったの……っ」
花街は隣街だ。
だけど……。
「街の境に鉄の檻みたいな扉があるのに?しかもこの街は分かりやすく高い塀で囲まれてる。隔離されてるって見ればわかるくらい」
何を言ってるのか理解出来ていないのか、男の子は首をかしげた。
「あー、えっと……。あの重たい扉、どうやって開けたの?」
「ここ、何かなって不思議に思って……っ。ちょっとだけ開いてたから入ったの……っ」
「そっか」
それで迷い込んだんだな。
1人でこんな薄暗い街に来たらそりゃ泣くよね。
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