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「じょ……、冗談ですよね……?」
「さあ?」
「さあって……っ」
「俺は一国の王子だ。その気になれば簡単にセナの事をここから連れ出せる」
「っ!!」
「だけど、そんな権力に頼ったりしない。そんな風にして連れ出したりしても、ただ虚しくなるだけだ。先ずはセナに俺の事を知ってもらう」
「リオ様の……?」
「だから俺にもセナの事を教えてほしい。この悪魔街の事も。この街の人達の笑顔は、見ていてとても苦しくなる」
リオ様はそう言って悲しそうに目を細めた。
私達が笑っているのは、何処かに諦めがあるからだ。
『この街から一生出られない』
『一生他の街から虐げられる』
そんな思いを皆何処かで持ってるから。
怒りや悲しみを、許してもらえないから……。
「リオ様。また、ここに来てくれますか?」
「ああ。約束する」
「リオ様の事、待っててもいいですか?」
「待っていてくれるのか?」
「お許し頂けるのであれば……」
「許すも何も、待っていてくれるなら待っていてくれ。必ず来る」
「はい」
リオ様に笑顔を向けてご飯を食べようとすると私の右手をリオ様が軽く持ち上げた。
「?リオ様……」
何をしているか聞こうとした瞬間に右手に触れるリオ様の唇。
固まる私。
そして赤くなった。
「リオ様!?」
「全く……。権力に頼らないと言ったが、頼りたくなってしまう。そんな無邪気な笑顔を向けるな」
「あの……っ」
「必ずこの街の人達を救う。そして必ずセナを……」
独り言のように呟くとリオ様は私の前にあるスプーンでスープを掬った。
それから顔を歪めた。
「……酷いな」
「え?」
ていうか、今からそのスプーン使ってご飯食べるんですけど……。
間接キスになるけど、リオ様はいいのかな……?
嫌じゃない……?
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