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それからドイル卿とは、二度と会うことは無かった。
それでも私との友情の証に、約束していたSF小説『マラコット深海』を発表した。1930年、ドイル卿が永眠する前年のことであった。
ドイル卿が亡くなって、もう1年が経つ。
スピリチュアリズム(心霊主義)を疑った私だが、霊界との交信に晩年を賭けた。
私を救ったのはナンシーなのか訊きたかったのだ。
ナンシーの『声』を聴くために『霊界通信機』に費やした私の晩年も終わる。
『霊界通信機』の発明は徒労に終わった。
本当のナンシーの『声』を聴くことは出来なかった。
疑う心で科学主義を信奉した私。
信じる心で心霊主義を信奉したドイル卿。
私とドイル卿は似ていたが、表裏一体の存在だった。
ドイル卿が亡くなる前に残した言葉──
『読者は私がたくさんの冒険をしたとお思いだろう。何より偉大で輝かしい冒険がこれから私を待っています』
それは霊界への旅立ちのことか?
ドイル卿は死の間際、あの『霊歌』と『声』を聴いただろうか?
「信じる心が無い貴方に、天国の門は開かないわ」
ナンシーの言葉が頭をよぎる。
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