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ドイル卿を迎えた晩餐では、私の考えたSF小説の話で盛り上がった。
「地殻変動によって陸地が海に沈むというのが神話的だ」本当に興味があるようだ。「ぜひ未来への予言として後世に残しましょう」
更に話は発展して「海中で生活する人間をアトランティスの生き残りにする設定にしては?」挙句に「エジソン先生との友情の証として、必ずや吾輩が小説にします」そんな約束をする始末だった。
そして、共に先妻を亡くしたことを嘆いた。
ドイル卿は公明正大にして、素朴なほどの正義観の持ち主だった。
それらは私が持ち合わせていない気質だ。少しの嫉妬と羨望。
ドイル卿が寝室に戻ると、部屋は潮を引いたように静寂に包まれた。
亡き妻ナンシーが嫌った闇と静寂。
それを払拭するように、また蓄音機を再生する。
〈ふんふんふ~♪〉
ナンシーの鼻歌に似た旋律が、滔々と流れる。
しかし、私を呼ぶ声がする前に再生を止めた。
その声を聴いたら、死者まで再生するような幻惑に囚われたからだ。
重く澱んだ空気を循環させるために、窓を開けて外の風を呼び込む。
空気に溶けた霊歌の残滓が、風に消えてゆくようだ。
遠くに工場の騒音が微かに聴こえる。
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