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闇と静寂が支配する死の間際、ナンシーはどんな想いで逝ったのか。
そんな傷心に苛まれ、私は深い闇に救いを求めた。
〈……ふんふんふ~♪〉
『528Hz』の音階が、幽かに残響する。
ナンシーが亡くなってすぐに、ミナと再婚したのは誤りか。
〈ふんふんふ~♪……〉
『741Hz』の旋律が、滔々と流れる。
ひとりを怖れたナンシーを置いて、仕事に逃げたことを詫びたかった。
〈ふんふんふ~ふ~♪〉
ソルフェジオの対の旋律が、リフレーンとなってウロボロスのように循環する。
つらい、くるしい、楽になりたい!
『霊歌』の旋律が流れる彼方の景色に、人影が手招きをしている。
「アルバ、こちらへいらっしゃい」
ナンシー待ってくれ、今行くよ──
〈パッリーン!〉
突然の音が静寂を裂いて、私の身体をびくっと跳ねさせた。
逆風が頬を打つ眼下に見えるのは、足もすくむ地上の風景だった。
私は3階の窓を越えて、身を投げようとしていたのだ。
「エジソン先生!」ドイル卿が飛び込んできた。「大丈夫ですか!?」
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