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ドイル卿の言葉で我に返った私は、慄然として肌が粟立った。
私は何をしようとしていたのか!?
蓄音機ではなく耳で、『霊歌』と『声』が聴こえたのだ!
まるで、私を死の淵に誘うように。
その時になって、はっと気が付いた。
ナンシーが私を呼ぶ時、「アルバ」ではなく「アル」と呼んでいたことを。
あの『声』はナンシーのものでは無い!
それなら、あの『霊歌』と『声』は誰のものか?
彼方から聴こえる『霊歌』は、彼方では無く霊界から聴こえる歌なのか?
それとも、死へ誘う死神の『声』なのか?
ナンシーの写真立てが割れていた。
あの音は写真立てが割れたものだと判った。
私を死の誘いから救ったのはナンシーだった。
「亡き奥様が、エジソン先生を救ったのですぞ」ドイル卿が言った。
もしかしたら──
もしかしたらナンシーにも、あの『霊歌』と『声』が聴こえていたのかもしれない。
だからスピリチュアルにすがり、ひとりになるのを嫌い、なにより闇と静寂を忌避していたのだ。
〈ふんふんふ~ふ~♪ ふふふっ……〉
闇に溶けるように、『霊歌』に混ざった笑いの余韻が、幽かに聴こえた。
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