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「ごめん、少しそれ分かるかも」
夏樹が言うと、小島が苦笑いをする。
「でも、それなら仕方ないよ。逃がした魚は大きいぞ」
苦し紛れの発言だった。傷ついていない。こんな恋愛、小さな出来事だ。
そう思いこむしかない。
「はは、自分で言っちゃうんだ。でも、いい人いると思うよ」
「私も、自分でいると思うよ」
言ってみて、むなしさを感じなかったわけではない。
だが、少し吹っ切れた気がした。
「良かった。この話をしたら、どんな対応するかなって怖かったんだよね」
ベンチに浅く座り、身体を伸ばす。
空を見上げて、小島に言う。
「どんな反応すると思ってた?」
「きーって怒るタイプではないと思ってたよ。でも、黙っちゃうかなって思った。もしかしたら泣くかなって。だから、そうしたらどう説明しようか不安だったんだ」
小島は、他の男にはない強さを持っている。
それは、自分の弱点を自らさらすことだ。
不安だった、ここが悪い、先に打ち明けられると、女は同情することが多い。
私が強くならなければ、これは母性ともいえる感情なのか。
「大丈夫だよ。ぺらぺらしゃべっちゃうよね」
「安心した」
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
「あ、送ってくよ。車で」
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