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再び違和感を覚える。
送って行くよ、車で?
別れた相手をおくっていく馬鹿がどこにいるのだ。
「いいよ。今日は電車で帰るから」
「え、でも」
「ごめん。ゴミだけ捨てておいて貰ってもいい?じゃね」
いいよ、という小島の声が背後から追ってきたが、すでに夏樹はベンチから立ち上がっていた。
伸びをするふりをして、身体を左右に振る。
平静を装っているだけで、小島に顔を見られたくなかった。
どこが平気なものか。振り返ることは絶対に出来なかった。
すでに夏樹の頬には、幾筋もの涙が流れていたのだから。
小島が見ているかも分からず、片手を上げる。これで、去ることが出来る。
周りでは、楽しそうにカップルが手を繋いではしゃいでいる。
子どもを肩車した父親が、母親をからかって怒られている。
そんな普通の恋人をして、家庭を作れると思っていたのに。
崩れた夢から背を向けるように、夏樹は足早に公園を後にした。
池で泳ぐ恋を横目に、遊歩道を抜けて駅までの道を歩く。
頬で拭っていた涙も、次第に我慢の決壊を超えていくのが分かる。
祭りがあるからか今日に限って人通りが多い。一本裏道に入ったのを境に、顔が一気に歪んだ。視界が揺らぐ。
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