8人が本棚に入れています
本棚に追加
地団太を踏みたい衝動に駆られながらも、夏樹は再び言う。
「分かった。でも、こんなにいきなりじゃ忘れられないよ。どうせなら嫌いになりたい。今まで、私の嫌いだったところ何?一番いやだったの」
「えー!」
またもや小島が困った声を発する。
「ごめん、太鼓の音がうるさいから静かなところ行くね。待って」
そう言う間に、考えているのではないかと訝しんでしまう。
数十秒も経った頃だろうか。
急に辺りの音が静かになる。
「話している時にさ、考え事をすると顔をしかめるじゃん」
「うん」
「それが少し気になっていたかな。その癖が直るといいと思う」
「え?」
なんだそれは。夏樹の頭に浮かぶ、何度目かのクエスチョンだ。考え事をしていて、顔をしかめるのは普通ではないのだろうか。
笑顔で、考え事などするわけがない。
それほど、どうでもいいと思える理由でさえも別れたいのだ。
ある意味、最高の別れの理由ともいえた。
「分かった。もういい。ちょっとスッキリした」
「そっか。ごめんね。ありがと」
そう言って、通話終了ボタンを夏樹が押すのをいつまでも待っている。
返事はしない。どこまで人に気を使えば気が済むのだ。
最初のコメントを投稿しよう!