第7話

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半ば、苛立ちのような気持ちを抱えて、夏樹は携帯を鞄に放り込んだ。 こんなにも簡単に別れがやってくるなんて、誰も教えてくれなかった。 正志に、心の内を話せといわれなければ、その覚悟でも来なかっただろう。 だが、夏樹が話そうとする前に、小島は別れたいと言い出した。 夏樹の雰囲気を感じたわけではないだろう。 小島の雰囲気のほうがおかしかった。 そこで、はっと気付かされる。 正志の話は、小島の前でしたことがない。だが、それは恋愛感情を持っていたという話をしないだけだ。 誤解されたのではないだろうか。 駅に向かっていた足を、急きょ公園に向けようとする。 公園にいなければ家に行けばいい。 数歩歩いて、だが再び立ち止まる。 このぐしゃぐしゃの顔でアパートに行けば、話し合いにはならないかもしれない。 そもそも、正志のことも夏樹の思い込みかもしれない。 あの小島が、そんな小さなやきもちで別れを切り出すはずがない。 だが、別れの理由はなんだ。顔をしかめる仕草と皿洗いだ。 案外ものすごく細かい性格なのかもしれない。だとすれば、正志の件もありうることだ。 以前に分かれてきた恋人たちとは小さな喧嘩をしてきたが、皿などさらに小さなものに思えた。 だが、何もしてあげられない。この言葉に込められた本心を思うと、彼に会いに行こうとは思えなかった。
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