8人が本棚に入れています
本棚に追加
「好きじゃなかったら、こんなに悩まないと思うよ」
正志が、今度は本当に轆轤の電源を切る。
肘を膝に置き、全身を前に倒しながら、顔をあげて夏樹を見つめる。
「心にあいたぽっかりとした穴を埋めたくて、こんなに執着しているだけなのかも」
「穴があいてるんだろう。彼が、そこにしっかりいた証拠じゃん」
どうして、こんなに突き落としてくるのだ。
彼など好きではなかった。次がいる。こう言って背中を押す人が大半であろうなか、正志は夏樹の目線を動かさない。
問題から目をそらせば、あとで後悔するとは分かっている。
だが、一時の辛さから逃げられる。
「そうですよね。いたんですよ。いなくなっちゃったんです」
何度泣いても、報われない。
何度考えても、答えは出ない。
何度信じても、物事は違うほうへ進んでいく。
どうして、好きなだけなのにうまくいかないのだろう。
「無理にとは言わないけれど、気になることは話した方がいいよ。第三者から見ていても、それは不思議だよ。もし他に女がいるんだとしても、それなら一発殴ってやればいい」
殴ればすっきりするだろうか。
そうだ、言いたいことはいってやればいいのだ。
最初のコメントを投稿しよう!