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「それに他にもありますよ。あの人も、話すときに時々口元に手を当てるんですよ。考えこむときとか。両手で口を抑えるんですよね。それ、気になってたんです」
「なんかそれ、当てつけみたいだな」
正志の言葉に苦笑いが漏れる。
「いや、本当にそうなんですよ。ただ、やっぱりそれも言うほどじゃないっていうか。癖なんだろうな、って思ったくらいで」
「そういうもんだよ。そのうち、相手の癖も可愛く思える。ま、いらつくこともあるけどさ」
あゆみさんの癖は、と聞こうとして、夏樹はやめた。
今、二人の好きあっている証拠など見たくも聞きたくもなかった。
「何かをしていても、運転している横顔や、驚いた時の顔、寝ている時のかおとか思い出しちゃうんですよ。おかしいのかな」
「普通だろう」
「私、やっぱり会いに行きます」
「いいんじゃない」
いいのだ。会いに行っても。いいのだ。思っていることをいっても。
夏樹は土を戻すと、正志に今日の礼を言う。
ここで土をいじり、正志と話すとストレスが無くなる気がした。
荷物を持ってドアを開けると、そこにはあゆみが立っている。
偶然だったのだろうが、ドアの目の前にいることで思わず驚いて後ずさる。
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