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会社には私服で出社していると聞いていたが、初めてみる。
ポロシャツ姿の小島は、夏樹には新鮮だった。最後にまたひとつ新しい姿を見たことだけを後悔する。
進にも、進めないにしても、きっとこのシーンも思い出に残るのだろうと、どこか客観的に見る。
小島は驚きながらも、土管から首を出す夏樹の元へと走ってくる。
普通ならば、声をかけてもそのまま素通りしてもおかしくないだろう。
それか、ここへ来たことを怒るかもしれない。
だが、困った顔をしても笑っている小島を見て、夏樹は涙をこらえきれなかった。
こんなに普通なのに、なぜ別れなければならないのか。
身体が崩れ落ちる夏樹に慌てて駆け寄ると、腕をそっと掴まれる。
「やっぱり、大丈夫じゃないか」
腕を振り払う。試しているのか、こいつ。と殴ってやりたくなる。
思い切り腕を振り上げて、小島の肩をめがけて振りおろそうとした。
下唇を噛んで、力を込めたのに、それを下ろすことはできなかった。
小島が、まっすぐに夏樹を見ていた。
大きな二重の目が、寂しそうに、しかし覚悟を決めたように。
「お皿なんて、くだらないよ。表情なんて、直せないよ。でも、別れる理由になんてならないよ!」
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