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「黙っていてごめん。そいつ、同期なんだけどさ。俺の転勤と一緒の時期に、向こうも都内に移るんだよね」
そんなことが聞きたいのではない。だが、何を聞きたいのかも分からない。
「ずっと自分がおかしいのかなって思っていたんだ。でも、普通に結婚もしたいし子どもも欲しい。ちゃんとしようと思ったのは一年くらい前かな。いわゆるパーティとかにも言ってみたけどうまくいかなくて」
小島は、黙ってしまった夏樹と反対に、今までで一番というほどよく話す。
一度崩した決壊はとどまるところをしらない。
夏樹は、聞いたことを整理することさえできず、次から次へと流れてくる情報を受け流す。
だが、小島がいわゆる同性愛者だと知って、今まで感じていた壁はこれだったのかと知る。
そして、その壁が急に崩れ去るのを手に取るように感じ、不思議と嬉しくてまた涙があふれた。
両手で顔を覆った夏樹に、小島はまだ語りかける。
「そんな時に紹介してくれるって友達から連絡があって、本当に会ってみたいと思ったんだ。積極的に取材をしたり頑張っている姿を見て、惹かれたよ。でも、ごめん。その比重が少しずつしぼんでいったんだ」
声が、小さくなる。変態、と怒鳴られるとおびえているように。
「ロボットって言われたっていったでしょ。友達に。多分、無意識で誰にでも壁を作ってしまうんだと思う。社会的な立場からすれば、誰にも言える話ではないし」
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