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「僕は、メールでも少しお話しましたが、メーカーで総務の仕事をしています。転勤でこの近くに配属されたのが3年まえですかね」
当たり障りのない会話を続けていると、すぐに飲み物とパスタが運ばれてきた。
夏樹はこういう場合、いつもどうすればいいのかまず迷う。
皿に取り分けるべきか。乾杯するべきか。
視線を感じてカウンターを見ると、マスターらしき太った男と目が合った。
頷き、ウィンクをされる。
「分けますね」
「あ、ありがとうございます。では、乾杯もしましょう」
小島が、飲み物を各自の前に置くと、夏樹がパスタを取り分けるのを待った。
「では、乾杯。わー、おいしそうですね。いただきます」
ビールをごくりと一口飲んだ後、小島は胸の前で手を合わせていう。
「いただきます」
つられるように、夏樹も手を合わせた。
メールで感じていた好感は、これだったのだ。
小島の礼儀正しさに、夏樹は舌を巻いた。食べ方ひとつを見てもそうだ。
八枚にきられているピザのひとつを丁寧にとると、豪快に、しかし皿を汚すこともなく口に運ぶ。
おしぼりで一度手をふくと、「おいしいよ、これ」と言って笑顔を見せる。
年齢がひとつ下だからか。少し弟のような錯覚をするが、夏樹は自分の心に逆らうことができなかった。そして、思った。
私は彼に、恋をする。
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