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「おはようございまーす」
いつも運転している車を止め、門を開けるときに夏樹は庭中に響く声で高らかに挨拶した。
「お、来たか。今日はずいぶん早いな」
「最近、日が出るのが一段と早いですからね。目が覚めちゃうんです」
「何を歳より臭いことを」
顎髭を撫でながら笑う男性は、夏樹にそう声をかけると腰を伸ばすように両手を上げた。軍手から、ぱらぱらと土が顔にかかっているが、そんなことは気にしていない。
「今週は、もう出来ていますか?」
夏樹がこの庭に通うようになって三年が過ぎた。
「東先生、出来ているから、野菜の収穫をしているんですよね」
初めはしかめっ面ばかりしていているこの男に、『はい』しか返事が出来なかった夏樹も、今ではここまで強く出れるようになった。
「原稿を持って帰らないと、私他の仕事にいけないんですから」
「お前のとこの社長とは、小学校の同級生なんだ。俺が少し言えば」
「それは、何度もお聞きしてますって。うちは毎週が校了なんですよ。みなさんんが先生のコラムを待っているんですから」
これは、大きな一手でいつも使う言葉である。
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