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「ううん」
唸るような声を上げて、しゃがみかけていた腰をまた持ち上げた。
足元には、籠に収穫されたキュウリやジャガイモがごろごろと入っている。
歳をとってからこんな生活をするのは理想だといつも夏樹は思うが、すぐに毎週の校了に追われている姿を思い出し、考えを打ち消す。
「あ、夏樹さん」
振り返らなくても分かる。だが、以前のように身体がびくつくような反応は見せなくなった。
「あ、毎週すみません。おじゃましています」
「こちらこそすみません。父がご迷惑をおかけしています」
門をはいって、土地の広いこの家の庭は、小学校の運動場がゆうに一つは入るのだろうという大きさだ。
そこにビニールハウスを建て、土を耕し様々な野菜を作っている東昭雄はこの地域では有名な農民作家である。
つまり、農業をしながら本を書いている作家である。
そして、今目の前に現れた男は、昭雄の息子である正志で、夏樹の3つ上である。
「別にお前に迷惑はかけていないだろう」
低い声で、唸るようにしゃべる昭雄に、正志は軽く肩をすくめて応戦し、夏樹に向けて片目をつぶった。
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