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「先生、二時間なら待ちますから!」
軍手をほおるようにして土に投げ、縁側から母屋へ上がっていく昭雄の後ろ姿に、夏樹は叫んだ。
こうして原稿を受け取りに来て、待たされることはあっても、書けなかったということは一度もない。
おそらく今回も、そうだろう。
「今日もやっていきます?」
あくびをしながら、正志が夏樹に笑いかける。
「いいですか?すみません、時間つぶしみたいになってしまって」
「何をいまさら。夏樹さんだんだん上手になっているので、止めるのももったいないですよ」
社交辞令だと分かっている。この男には本命の彼女がいて、優しい性格なのだ。
夏樹だから、特別なのではない。分かっている。
負けじと笑顔を浮かべて頷いたが、おそらく苦笑いにしかなっていない自信があった。
「うーん、この匂い。落ち着くんですよね」
母屋から離れ、庭の先になる小屋のドアを開けると、夏樹は大きく深呼吸しながら言った。
「お、それかなり癖になってますね。最近は湿気も多いし、匂いがさらに強くなっていると思いますよ。週一回じゃなくて、毎日でも来てくださいよ」
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