第2話

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しかし、逆らうことができるはずもない。 研修を終えた夏樹は、気が乗らないまま近くのショッピングモールに車を走らせ、それなりに有名な店で菓子折を購入しした。 三回前のコラムで、彼が甘いものが好きだと分かっている。 ニンニク講座で行く畑も、東の家の庭だと聞いていたのですでに場所は把握していた。 会社から約二十分車を走らせ、市街地からは離れた林の中に、彼の家はこじんまりと建っていた。 周囲の家までは、回覧版を回すだけでも面倒になりそうな距離がある。 家も彼の収入に関係なく、それなりに代々続いてきたことを頷かせる造り立った。 到着した頃には、雨がぽつりと降り始めてきた。 傘などない。 車から出ると、菓子折が濡れないように胸に抱えて玄関まで走る。 門から家までの間は競争ができそうなほど長く、家の前に広がる庭には冬だからか苗は少なかった。 ただ、夕方とはいえ空は暗く、電気がついているということは家にいるのだろう。 息を切らして軒先に入ると、大きく息を吸ってからチャイムに手を伸ばした。 昔ながらのブザー音が家の中に響くのが聞える。 だが、奥から誰かが出てくる気配はない。
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