8人が本棚に入れています
本棚に追加
というのも、東が話した内容に一番受けたのは、社長だったらしいのだが。
結局、原稿は夏樹が受け取りにくるようになった。
「多分、そろそろ原稿ができたと思うので、今日はこれくらいにしておきます。また来週」
夏樹は、作品を作ることにこだわっているわけではない。
手のひらで土をこね、水をつけ、またこねる。
どうということのない作業だが、ひたっと伝う土の冷たさが心地よく、ろくろを回していると、悩みも迷いもすべてがなくなる感覚を味わえるのだ好きなのだ。
「いつでもどうぞ」
正志は、ぺこりと頭を下げると、夏樹が帰ることを責めようともせず、また作品を早く作れともいわない。
彼も、永遠とろくろを回す時が、あるのだろうか。
鞄をとって、彼を振り返ったが、正志はすでに釉薬の入った瓶を見つめていた。
話しかけるのを止め、小屋のドアをそっと引いた。
案の定、原稿はすでに出来ていた。東は陶芸をしている夏樹を気遣って、縁側に置いていってくれたようだ。
「ご苦労様です」
原稿を手に取り、ふと声のしたほうへ顔を向けると、女が一人立っていた。
「あ、こんにちは」
グレーのシックなワンピースに身を包んだ女性は、畑と小屋のあるこの場所にはとても不似合いだ。
最初のコメントを投稿しよう!