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「あのさ、付き合っているひと、いる?」
カラオケを歌うのも疲れ、お茶でもしようかと店を出た直後だった。
小島が、突如そう告げた。
何かを話しても「うん」としか返答を得られず、小島が一歩を踏み出そうとしているのは長年生きていると感覚で分かった。
だが、あまりに意表を突く質問で笑いが漏れる。
「いたら、こうして遊んでないよ」
「そうだよね」
決して引っ張ってくれるタイプではない。でも、夏樹の歩幅を確かめて、立ち止まってくれる人だ。
面白いことを言うわけでもない。それでも、いつも笑っていてくれる人だ。
背が高いわけじゃない。でも、色んな知識がある。
「でも、私はいいな、と思ってるから遊んでるんだよ」
告白をしたつもりでも、導くつもりでもなく、素直に心からでたせりふだった。
外套しかない暗闇の中、車が数台二人を追い越していく。ライトが消え去るとまた訪れる暗闇。
「好きです。付き合ってください」
数秒後に、小島の口から吐き出された音は、水たまりの波紋のように震えていた。
それが可愛らしくて、また夏樹は笑う。
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