第三話

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「それでは皆様、新郎新婦の登場です」 マイクを通して司会者の声が響き、ひときわ大きな音で音楽が鳴る。 みんなが拍手をして、ドアを見つめる中、幸の台詞がまた夏樹の耳に届く。 「このテーブルの花だって、ひとつ十万はするよ。銀行に勤めているといいよね」 幸が吐く毒とは対照的に、登場した光はスポットライトを浴び、幸せそうに微笑んでいるのが離れたところからも見えた。 ちらりと左に視線をやると、幸は座席表に目を落として、拍手をしないどころか、光を見ようともしていなかった。 この年齢になってくると、結婚式への参列は数カ月に一度の割合か、集中すれば同じ月に行くことさえある。 その上、先に結婚したカップルの問題を聞いたりすれば、結婚式というのは極上の幸せの時間だと分かっていても、そののちに何かが起こることはわかっている。 となると、ただの幻とさえ思え、証など心の中で刻めばいいと思うようになる。 そうなると、どこか白けた気持ちで新郎新婦を眺める気持ちがないといえばウソになる。 ウェディングドレスやテーブルの花、引き出物に会場、かかった費用や並べられ矢花がいくらか計算するあたり、乙女心が純粋だなんて嘘らしい。
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