第三話

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夏樹は自分が醒めているのか、結婚に向いていないのかと思ってしまうが、それでもテーブルでさほどはしゃぐ感じが出ないのは、あからさまに夏樹だけではないのだろう。 だが、幸は結婚というリアルさだけでなく、自身の立場まで持ち込んでいた。 「私の今後の希望は、まず旦那と別れること。もう離婚届ももらってきてあるからさ。それで、近くにショッピングモールができたじゃない?あそこで働きながら子どもを育てるの」 ケーキの入刀も済ませ、高砂に行ってみんなで写真も撮った。そろそろデザートが運ばれてくるかという時だった。 披露宴の間中、夏樹にいかに結婚が面白くないかを語っていた幸が言う。 「え、離婚届書いたの?」 「うん。引き出しにしまってある。旦那にも言ったし。嫌がっているけどね」 幸の話は、テーブルの他の者にも聞えているはずだが、誰一人として話題に入ってこない。 面倒なのか、関わりたくないのか、自分の話に飛び火するのがこわいのか。 おそらく、そのどれもがあてはまるだろう。 人は、誰しもが何かを背負っているのだろうが、人が不幸であれば、自分の不幸がまだましだったと思える。 が、自分が不幸のどん底だと思ってしまうのと、周りのだれもが幸福に見えてしまう。
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