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七時に終わった披露宴は、いつの間にかだらだらと別れがたく、地元に戻ってきた頃には九時を回っていた。
初めて見せる姿に、小島が喜んでくれるのか不安に思いながら、アパートの外階段を駆け足で登った。
駅まで迎えに来てくれるという小島に、連絡をせずに来てしまった。
わざわざ来てもらうのも悪かったし、彼の驚いた顔を誰にも見せたくなかった。
そう、駅で知らない人にさえも。
息を整えて、角部屋の玄関のドアの前に立つと、チャイムを押した。
今日はこの姿を見せて、夏樹は初めて泊る予定だ。
「え、メールしてって言ったじゃん。危ないよ」
玄関を開けた彼は、驚いた顔をしてくれたが、それはドレスアップにというよりも突然夏樹が現れたことに対してのようだった。
若干、反応の薄さに拍子抜けしたが、心配してくれるところが彼らしいと心がふつふつ温まる。
自分の感情よりも人の気持ちを大事に出来ること、自分の苦労よりも相手を心配できること。
簡単なようで、つい優先順位が自分に向いてしまうのは生きていて当然だと言える。
小島も自分は優先する。だが、夏樹のことをそれ以上に心配してくれるのだ。
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