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「入って。コーヒー入れてあげるから」
小島は一歩奥に引くと、夏樹を迎え入れる。
コートを脱ぐと、すぐにそれを受け取り、クローゼットの中からハンガーを取りだし壁にかけてくれた。
こういう一つひとつ些細なことで、大事にされていると感じるのだ。
「あ、スリッパ履いてね」
「はーい」
男の一人暮らしとは思えないほど、小島の家はすっきりと片付いている。
おそらく、それは夏樹が来るからではなく、普段からこうなのだと感じる。
几帳面でまめなところは、夏樹がずぼらな分、とても魅力的な部分である。
こうして遊びに来るたびにスリッパを出されることにも、もう慣れた。
「カレーをね、作っていたんですよ」
入ってすぐのキッチンには、大きな鍋が火に掛けられていて、披露宴で満腹だったことも忘れてしまうほど、空腹を誘うものだった。
ヒールのパンプスを脱ぎ、両足をそろえる。
玄関の棚には、小島の趣味である石田桃のバンドの可愛らしいグッズが並べられている。
といっても、バンドのロゴをマークにしたミニの国旗や、動物の置物、すべてが埋められているのに、雑然としているわけではない。
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